映画『カウンセラー』8時間労働と契約書①

※全ては「作品」が面白くなることが重要であり、尊重するべきことと思います。そのためにどうすれば効率的で、健全で、効果的なのか。を考えた結果、行動しました。

業界の批判や暴露が目的ではありません。事実と現実を踏まえて、ではどうすることが自分たちのやりかたに対して最適解だったのか。という文章です↓。

どうもどうも。どどPです。

『カウンセラー』ではキャスト・スタッフと契約書を結び

その中で実質撮影時間を8時間までとするルールを設け明文・書面化しました。

製作する中、酒井さんが「これは自分たち(制作側)を守るためのものではなくスタッフ・キャストを守るためのものにしたい。」と言ったことが印象に残っています。

彼らしい考えだな。といたく納得した記憶があります。

酒井さんが今回からは契約書をちゃんと作ろうと言った際に僕が「今回の撮影は8時間でやりたい。いいかな?」と言った。

酒井さんは「うん。いいよ。」とかなりあっさり承諾。

「さすがにそれは無理じゃ無い?」と言われる事を予想していたので、肩透かしを食らった気分でした。

長い事観察していますが、やはり掴み処の無い人です。

【契約書に関して】

酒井さんが契約書を作りたいと言った事に対して僕は異論はありませんでした。普段から商業映画の労働環境に関して議論を交わしていたし、お互いの考えに関してはすり合わせは済んでいたからだと思います。

現場スタッフの仕事を受ける流れ

基本、映画の仕事はフリーランスのスタッフが多いです。

① 制作会社もしくは上司、先輩から連絡がくる。

② スケジュールを聞かれる。

③ (スケジュールが空いてる場合)仕事が決まる。

④ 準備期間が始まり合流する

⑤ 撮影クランクイン。クランクアップ

⑥ 月末ないし翌月末、翌々月末支払い

というのが現場スタッフの、おおまかな仕事受注の流れです。

②のスケジュールを聞かれるタイミングでは作品内容、チーム編成、ギャランティを開示されないことはよくあります。

仕事を受けてから「ちなみに〜作品内容は?監督は?ギャラっていくらですか?」と尋ねて初めて判明する事は少なくない

報酬(ギャランティー)に関しては決まってないこともある。

③の仕事が決まると書いたが、実情ほとんど口約束であることが多い。

仮にプロダクションの都合やなにがしかで作品がなくなっても補償はない。

※これに関しては最近はだいぶ補償がつくようになった。主にAmazonやNetflixといった外資系の企業がしっかりと払ってくれることが周知されたことが大きいのではないかと思う。

それ以前は急に仕事がなくなってもごめんねの一言で終わりだったことも少なくない。(作品規模にもよる)

なんの補償もないフリーランスからすると死活問題である。

ただし慢性的な人材不足なのでなんとかなったりする。

④このタイミングで契約書を交わすパターンが多い。

とはいうものの、このタイミングで契約を交わさないという選択肢はない。

仕事をうけてからギャラを提示されて愕然とするが拒否できるわけもなく、もやもやして契約を交わすということもありにけり。

ちなみに僕の知り合いが、この契約書を交わすタイミングで契約書の文面に同意できないとプロデューサーに意義を申し立て契約書に同意ぜず、結果的に条件を改善させた。というパターンもある。彼のような猛者が本来あるべき対プロデューサの交渉なのだが、なかなかそんな強気に出れないのが実情だ。

(単純に顔色を伺ってしまう私の問題かもしれない)

余談だが、知人のスタッフに10年以上従事しているが一度も契約書を書いたことがない。という例もある。誰もが知る有名監督の作品を何度もやっているスタッフでもそういうことがあるんだなと驚いた。

⑤ ご存知の撮影期間。特に補足することはない。

⑥ たまに支払いをしない、できない製作会社があったりなかったり

俗にいう「バックれ」

幸いなことに僕は一度も経験したことはない。

しかし経験してる人が結構いる模様。倒産・逃走など理由は色々。

先日書いた記事でも述べましたが、酒井は「輪」の外の人間です。

(ここでいう「輪」とは商業映画やTVドラマなどの制作現場に従事する環境を指します)わりと常識的なのでまっとうに契約書を結ぶべきだ。と思っていたのだと推測します。

僕が同意した理由は

1:僕としては単純に自分が経験してやられて嫌なことは人にしたくない。

2:筋を通すということが実際にやってみるとどれほどの事になるのかを知りたかった。

という2つの理由でした。

○契約書の草案→完成までのやりとり

契約書の下地は僕が仕事した実在する映画製作会社の実際の契約書を手本にさせて頂いきました。

酒井:こういうの要らない、ここも要らない。

   とバシバシ添削をしていく酒井。

僕 :(う〜ん。なんか契約書っぽくないなぁ)

酒井:これはさ、自分たち(制作側)を守るためのものではなくスタッフ・俳優部を守るため          のものにしたいから。俺たちに優位なようなものではなく対等なものしよう※1

僕 :うむ

酒井:それとさ

僕 :ほい

酒井:甲乙はやめない?

僕 :え?じゃあどうすんの?

酒井:「あなた」と「わたし」とかでいいんじゃないかな?

僕 :(そこ引っかかるんかーい)

このエピソードは個人的にとても気に入っています。

とても彼らしいというかなんというか。

全然契約書らしくないし、いいのかなぁ。とその時は思いましたが、いまではユニークで割と好きです。身の丈に合っている感じで。

※1 多くの契約書は法律第何条により云々となっていること。指示に対してちゃんと働いてください、守らなければ解雇できるなど、制作側に有利な条件を同意させるものが多い。この点は僕もそれが当たり前に思っていたので酒井さんに言われてハッとなりました。

かくして自主映画らしい、いやDrunkenBirdらしい(?)ヘンテコな契約書が完成した。

法律的な監修が全く入っていないので、穴だらけで、ちゃんとした人から見るとママゴトのような契約書と笑われてしまうかもしれない。

自主映画でそんなことして意味があるんですか?という人もスタッフの中にも実際いた。反面、契約書を交わすことに興味を持って賛同してくれる人もいました。

大事な事は、制作側である「わたし」が依頼する「あなた」に対し約束を明文化して、人間関係に甘えて約束を逸脱せず、自分たち自身を律する事。だと思います。

意味があるか、ないかは現時点ではわかりません。この先続けていくことでわかってくるのかな?と今は思っています。

【映画『カウンセラー』8時間労働と契約書②】に続きます。

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